桐生編STORY

桐生の選択

堂島組事務所を出た桐生は錦山と合流し、風間組事務所にいた。
風間組若頭にして風間新太郎の片腕である柏木修に相談するためだ。
風間から信頼され、桐生と錦山も若い頃から顔なじみの柏木は二人にとって恐ろしくも頼もしい兄貴分だった。

事情を聴いた柏木は不機嫌そうにひたすら冷麺をすすっている。
桐生と錦山が押し黙って見守る中、スープまで飲み干すとようやく口を開く。

現在、神室町に再開発計画が持ち上がっており計画の主導権を握ればそこから計り知れない利権を得られる。
そこに堂島組が乗り出し、計画地域の土地を買い漁っている。
しかしどうしても所有者が見つからず、手に出来ない土地がある。
それこそが「カラの一坪」なのだという。

堂島組長が「カラの一坪」を求める理由は再開発計画に絡む巨大な利権のためだった。
そのためであれば、次期若頭の座を餌にすることも頷けた。

「桐生は当然として、追い詰められてんのは風間の親父も同じだ。
 桐生がカタギ殺したってことで、後見人の親父もケジメを迫られる。
 若頭補佐の誰かが『カラの一坪』手にしてみろ。
 やつは風間の親父を必ず組から追い出す」

巨大な利権、次期若頭のポスト、恩人風間の窮地……
桐生はいつの間にか様々な思惑の渦中に巻き込まれていた。

だが、そんな中でも桐生が優先することは一つだった。
決意の表情で桐生は言う。

「俺の殺人の濡れ衣も『カラの一坪』も後回しだ。
 今はとにかく…… 俺は風間の親っさんを守るために動く」

「何する気だ、桐生」

「俺は今日限り堂島組を抜ける。盃返して…… 極道から足を洗う。
 『カラの一坪」での殺人、とにかく俺一人の責任としてケリをつけるんだ」

あまりに無謀な選択。組に入って数年のヤクザがそう簡単に足を洗えるはずがない。
その場で殺されることも十分ありうる。
だが錦山の必死の説得も、柏木の鉄拳も桐生の決意を変えることは出来なかった。

「長い間、お世話になりました」

深く一礼し、桐生は堂島組事務所へ向かうのだった。
己の死地となる場所へ……