桐生編STORY
若き二人
「バイト」を終えた桐生は待ち合わせ場所へ向かう。
待ちくたびれた頃にようやくやって来たのは、同じ堂島組の若衆、錦山だった。
「よう。今夜は久々にオールで付き合えよ、な?」
遅れてきたことに悪びれもせず、錦山は最近買ったばかりだという車のキーを得意げに振り回す。
桐生と錦山は幼い頃から同じ養護施設で育った兄弟同然の間柄。
そして二人は同じ人物…… 育ての親にして堂島組若頭、風間新太郎に憧れて極道の世界に飛び込んだ。
桐生と違い野心も才覚もある錦山は好景気の波に乗り順調にシノギをあげていた。
車も中古とはいえ国産の高級車だ。二十歳そこらの若者が買える代物ではない。
組の兄貴たちの覚えもめでたく、街での顔も広い。
「このご時世だぜ?お前もちっとは頭を使えばいいのによ」
そう言ってあおる酒も一杯数千円はする高級ブランデーだ。
「俺は風間の親っさんの背中を追いかけてこの世界に入っただけだ。
親っさんのために体張るくらいしか、俺には能がねえ」
不器用で喧嘩の腕だけが取り柄の桐生にはそう答えることしかできない。
だが錦山は知っている。
この愚直さこそ桐生という男の才能なのだということを。
「……そうか。ま、お前はそのままでもいいのかもな。
よし、真面目な話はやめだ!パーッと騒ごうぜ!」
マイクを掴み、歌う気満々で錦山が立ち上がる。
若き男たちの夜は始まったばかりだ。