真島編STORY

夜の帝王

「もう、ええ加減にして!」
浮かれた店の空気を甲高い悲鳴が切り裂く。
声を上げたのは店のキャスト。客の度が過ぎた「お触り」が原因だ。更に止めに入ったボーイに客が暴力をふるったことでフロアは一瞬にして緊張に包まれる。

静まり返る店内。
そこへ、優雅な足取りで客へ近づいてゆく者がいた。

洗練された身のこなし、品のいいブラックスーツ。
顔には余裕の微笑がうっすらと浮かんでいる。
だがその一方で左目が物々しい眼帯で覆われた得体の知れない男。
男は客の前に立つと、深々と頭を下げる。

「お客様。本日はお越し頂き、ありがとうございます」

この男こそグランドの支配人・真島吾朗。
蒼天堀で「夜の帝王」とあだ名される遣り手支配人だった。

慇懃な態度を一切崩さないまま、あっという間に暴れる客を取り押さえる真島。
その見事な手際にフロアから拍手喝采が沸き起こる。

当然警察へ突き出されるはずの客。
だが真島はフロアの全員へこの客の許しを請うのだった。
暴れた客の社会的地位、興をそがれた客たちの不満、そして店の評判。
その全てが丸く収まるよう、真島は場をコントロールしていく。

突発的なトラブルを鮮やかに裁ききった真島。
その姿を見て、客の一人が思わずつぶやく。

「なるほど、あれが“夜の帝王”か……」